2023年4月1日より、法定外残業時間が月60時間を超えた場合の割増賃金50%以上の支払義務が、中小企業にも適用されます。10年以上適用が猶予されてきた本規定ですが、働き方改革関連法案施行により、そのリミットが迫ってきました。

この記事では、中小企業の事業主や管理者の方向けに、残業が月60時間を超えた場合の割増賃金の計算方法や代替休暇の取り扱いについて、わかりやすく解説します。

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時間外労働と上限規制について

残業時間には、法定外残業と法定内残業の2種類が存在します。法定外残業は、労働基準法によって定められている法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働を指します。

法定外残業を命じるためには、36協定の締結・届出が必要で、また実際に発生した法定外残業に対しては、割増賃金の支払が必要となります。労働基準法において上限が定められているのは、この法定外残業の方です。

一方、法定内残業は所定外残業とも呼ばれ、企業が就業規則等で定めた所定労働時間を超えているものの、法定労働時間内には収まっている残業を指します。たとえば、フルタイム従業員の所定労働時間が7時間の事業場においては、法定労働時間に達するまでの1時間の残業がこれに該当します。

法定内残業は、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いは必要ありません。ただし、割増賃金を加算しない通常の賃金は、残業時間分必要となるため注意が必要です。

36協定と原則的な上限時間

36協定とは「時間外労働及び休日労働に関する労使協定」で、36協定を締結して労働基準監督署に届け出たうえで、就業規則等に「時間外労働を命じることがある」旨を規定して初めて、時間外労働を命じることが可能となります。

また、36協定を締結したとしても、原則的な法定外残業の時間は、月45時間及び年間360時間までが上限と定められています。この上限時間のカウントには、法定休日における労働時間(休日労働)は含まれないため、休日労働の時間は別で管理する必要があります。

なお、36協定の有無に関わらず、時間外労働を命じた場合は、時間分の基礎賃金に割増率25%以上の割増賃金を加算して支払う必要があります。

上限時間の例外が認められる特別条項とは

やむを得ず「月45時間」を超える残業が必要となる「臨時的な特別な事情」がある場合は、36協定に「特別条項」を設けることで、原則の上限を超えた残業が認められます。

この臨時的な特別な事情とは「予算、決算業務」「納期のひっ迫」「大規模クレームへの対応」など、通常予見できない急激な業務量の増加の場合に限られ、「慢性的な人手不足」「事業主の判断によって」などは臨時的な特別な事情とは認められません。

また、特別条項を設けた場合でも、以下の規制をすべて満たす必要があります。

  • 時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満及び年720時間未満であること
  • 月45時間を超えることのできる回数は年6回まで
  • 時間外労働と休日労働の合計時間が「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」のいずれも80時間以内であること

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残業時間が60時間を超えた場合の2つの対応

特別条項の締結を前提として残業時間(時間外労働)が月60時間を超えた場合、基礎賃金×50%以上の割増賃金を支払うか、代替休暇を付与するか、どちらかの対応になります。

本規定は、2010年の労働基準法改正の際に設けられましたが、経過措置として資金面で制約がある中小企業への適用は長年猶予されてきました。

しかし近年、長時間労働に伴う精神的不調による休職や過労死などが社会問題化したことを受け、働き方改革関連法の施行に伴い、中小企業への割増賃金の引き上げ適用が2023年4月1日と決まりました。

原則は50%以上の割増賃金|計算例も解説

月の残業時間が60時間を超えた場合は、その超えた時間分の基礎賃金に50%以上の割増賃金を加算した賃金を支払う必要があります。

なお、50%以上の割増賃金が必要となるのは、60時間を超えた部分のみであり、時間外労働全体の割増率が50%以上になるわけではありません。

例として、1時間あたりの基礎賃金が2,000円で、ある月の時間外労働が70時間だった場合(割増率は、それぞれ最低ラインの25%及び50%とする)で計算してみましょう。

60時間までは通常の時間外労働として計算するため、「2,000×1.25×60=150,000円」となり、60時間を超えた10時間分は割増率50%で「2,000×1.5×10=30,000円」となり、合計180,000円が当月の残業代ということになります。

深夜労働が発生した場合は、深夜割増賃金も加算

22時~翌5時までの深夜労働が発生した場合、時間外労働とは別に25%以上の深夜割増賃金を支払う必要があります。

この深夜割増賃金は、労働時間数に関係なく発生し、法定労働時間内であっても等しく支払う必要があります。また、法定時間外労働において深夜労働が発生した場合は、時間外割増賃金に深夜割増賃金を加算して支払う必要があります。

つまり、法定労働時間内での深夜労働は割増率25%以上、法定労働時間外であれば50%以上、時間外労働が60時間を超えての深夜労働には75%以上、割増賃金を支払う必要があります。

なお、休日労働と時間外労働は重複しないため、残業60時間を超えて休日労働が発生しても、35%以上の休日割増賃金にさらに加算されることはありません。

割増賃金の上乗せに代わる代替休暇とは

月の残業時間が60時間を超えた労働者から申し出があった場合は、50%以上の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することも可能です。これを「代替休暇」と呼びます。

代替休暇を付与を可能とするためには、別途労使協定の締結が必要(労働基準監督署への届け出は不要)です。

また、代替休暇に代えられるのは、あくまでも50%以上の割増賃金が必要な部分のみです。つまり、代替休暇を付与したとしても、通常の25%以上の割増賃金支払義務は残るため、注意が必要です。

なお、60時間超えの時間外労働に対して「50%以上の割増賃金を受け取るか」「代替休暇を取得するか」という選択は労働者の判断であり、会社から強制的に代替休暇を付与することは認められません。

代替休暇の計算方法と付与例

具体的には、月60時間超の割増率50%以上の割増賃金から、通常の時間外労働に対する割増率25%以上の割増賃金を差し引いた金額を、休暇時間に換算して付与することになります。

計算式は以下のとおりです。なお、「換算率」とは月60時間超の割増賃金率から、代替休暇を付与した場合に支払う割増賃金率を差し引いた数値です。

(1ヶ月の法定時間外労働時間数 – 60)× 換算率

例えば、ある月の法定時間外労働が「100時間」発生し、月60時間超の割増賃金率「50%」、代替休暇を付与した場合に支払う割増賃金率「25%」とした場合で計算してみましょう。

換算率は「50% – 25% = 25%」となるため、「100 – 60 × 0.25 = 10」で、10時間分の代替休暇を取得できることになります。

また、半日・1日単位に満たない端数については、割増賃金として支払うか、時間単位年休と合わせて有給休暇として扱うか、企業が任意に定めることができます。

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残業60時間超の割増賃金でよくある質問

月の残業時間が60時間を超えた場合の対応について、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q
月60時間を超える残業は何回まで認められる?
Q
残業時間60時間超の割増賃金はいつから適用?
Q
公務員の残業が月60時間を超えたら?

月60時間超の割増賃金は勤怠管理システムで管理

月60時間超の割増賃金に対する割増率の引き上げは、中小企業への適用が迫っており、就業規則の改定など早急かつ正確な対応が求められています。また、月60時間を超える残業は、平均を超える水準にあると言え、残業時間を抑制する企業努力も必要です。

勤怠管理システムを導入することで、法改正への自動対応、正しい賃金計算が可能となります。加えて、リアルタイムに勤怠状況が把握できるため、超過労働になりそうな従業員に対して個別にアナウンスするなど、適切な対応が可能となります。

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