会社の早退は厳密にいうと、労務提供の義務違反になります。雇用契約の際に交わした所定労働時間を守る必要があるためです。

会社としては、なるべく注意や対話のみで改善されるのがベストですが、悪質な場合はルールに則って処分が必要となる場合もあります。

この記事では、従業員が会社に遅刻した場合の対応や処分方法について、わかりやすく解説します。

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会社に遅刻するとは

会社に遅刻するということは、就業規則及び雇用契約書に記載された始業時間に遅れて出社するということになります。会社は、遅れた時間に対しては「ノーワーク・ノーペイの原則」によって賃金を支払う必要はありません。

「ノーワーク・ノーペイの原則」とは、使用者は労働が無かった分の賃金について支払う必要がないという考え方で、法律で明文化されていないものの、一般的に認められています。

また、この遅刻や欠勤のように、本来労働義務のある日や時間に労務提供がなかった場合に、その分の賃金を控除することを「不就労控除」と呼びます。

さらに、遅刻が常習化したり、注意しても改善が見られない場合は、就業規則等の規定に従って懲戒処分を下すことも可能です。

控除する場合は端数処理に注意

遅刻を理由に不就労控除を行う場合、遅刻した時間は1分単位で計算する必要があります。計算を簡易にする目的で、5分の遅刻を30分などに切り上げて計算をしてしまうことは、「賃金全額払の原則」に反して認められません。

つまり、実際に遅刻した時間よりも多く計上することで、労働時間を不当に切り捨てることになり、労働者に不利益な取り扱いになってしまいます。

同様の理由で、控除額を計算をした結果、その額に端数が生じた場合は控除額を切り捨てて計算する必要があります。控除額を切り上げて算出してしまうと、結果として差し引き後の支給額が、実際に勤務した日数・時間に応じた賃金額よりも少なくなってしまうためです。

典型的な遅刻の理由とその対応

遅刻の理由にはさまざまなものが考えられますが、中でも典型的なものをいくつかピックアップし、それぞれの初動対応をご紹介します。

寝坊

寝坊の場合は本人の責任である場合が多いため、常習でない場合は口頭での注意で反省を促すのが一般的です。

ただし、以下のケースにおいては、必ずしも本人だけの責任とは限らないため、別途対応が必要となります。

  • 睡眠時無呼吸症候群や不眠症など、何らかの病気・疾患を抱えている
  • 連日深夜に及ぶような長時間労働が続き、十分な睡眠時間を確保できない

まず、病気や疾患を抱えている場合は、本人から症状を聞き出し、然るべき診断や治療を受けるよう促すのが大切です。ただし、本人に自覚症状がない場合もあるため、客観的に異常を感じた場合は産業医などとの面談を受けさせることも検討すべきでしょう。

また、長時間労働による睡眠不足が考えられる場合は、会社・管理者側の責任も大きいと言えます。普段から従業員の勤怠状況については把握できる状態にしておき、長時間労働が続いている従業員には休暇を与えたり業務量を調整したりといった対処が必要です。

体調不良(腹痛など)の場合

体調不良による遅刻は、本人の責任とも言い切れない可能性があります。風邪などは自己体調管理の範疇ですが、偏頭痛や女性特有の生理痛などはどうしようもない部分があります。

かりに、本人から「少し休めば回復する」という連絡があった場合は、不就労控除の対象となる遅刻ではなく、半日単位年休の取得などを促すことも考えましょう。ただし、会社が強制的に取得させることはできず、あくまでも本人の選択に委ねられます。

また、感染症が疑われる場合は、遅刻して来られてもかえって社内感染のリスクが高いため、医師の診断を受けさせて、たとえ陰性でもその日は休ませるほうが無難でしょう。

家庭の事情の場合

未就学の子どもを抱える従業員が、子どもの急な発熱やケガなどで病院へ連れていき、遅刻してしまうことがあります。また、要介護家族を抱える従業員は、介助やデイサービスへの対応などで遅刻してしまうことがあります。

こうした事情を持つ従業員に対する休暇制度として、育児・介護休業法には「子の看護休暇」と「介護休暇」が定められています。そして、この2つの休暇制度は、1日単位だけでなく時間単位での取得も可能となっています。

家庭の事情により遅刻が避けられない従業員には、こうした時間単位での休暇制度を利用してもらうのが有効です。

電車・バスなどの公的交通機関が遅延した場合

電車・バスなどの公的交通機関の遅延による遅刻は、従業員にとってどうしようもない理由になります。

この場合は、不就労控除の対象とはなるものの、人事評価や賞与査定におけるマイナス要素とするのは適切ではありません。

なお、遅延が発生した公共交通機関からは遅延証明書が発行されるため、これを従業員に提出してもらうのが一般的です。ただし、かりに従業員が受け取りそびれた場合でも、公共交通機関の公式サイトなどに遅延情報が掲載されるため、柔軟な対応が必要です。

マイカー通勤などの交通渋滞で遅刻した場合

マイカー通勤者の交通渋滞での遅刻は、突発的か常態化しているかで判断が分かれます。

事故などで交通渋滞になる場合は、本人が起こした事故でない限りは責任は無いと言えます。ただし、公共交通機関の遅延と違って公的な証明が難しいため、可能であれば本人に事故現場付近の写真を撮っておいてもらうと確実でしょう。

また、事故などによる突発的な渋滞ではなく、渋滞が常態化つまり通勤渋滞に巻き込まれている場合であれば、時差出勤により始業時間を調整するか、マイカー通勤そのものを見直す必要が出てきます。

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遅刻に対する懲戒処分

特に配慮すべき理由もなく遅刻を繰り返す従業員に対しては、社内規律や職場の雰囲気を守るためにも、何らかの処分が必要となってきます。ただし、具体的な処分を科すためには、就業規則等にその要件や内容を明記しておく必要があります。

戒告・譴責

戒告及び譴責は、いずれも本人に注意をした上で反省を促すことで、懲戒処分の中では最も軽いものとなります。

戒告は、口頭または書面による厳重注意のことで、次に述べる譴責とほぼ同じ内容ですが、必ずしも書面の提出を伴わないのが特徴です。

譴責は、厳重注意のあとに始末書や顛末書などの書面を提出させて、本人の反省促す処分で、戒告よりもやや重い処分という位置づけです。

減給処分

減給処分は、不就労控除とは別に、制裁として賃金から一定額を差し引く処分です。減給処分については、労働基準法に以下のような上限が定められています。

(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

労働基準法第91条|法令検索 e-Gov

つまり、1回ごとの減給額は平均賃金1日分の半額を超えてはならず、また月(賃金支払期)の減給総額が賃金月額の10%を超えてはなりません。

出勤停止

出勤停止は、一定期間当該従業員の就業を禁じる処分です。出勤停止期間中は当然無給となり、年次有給休暇の付与要件となる出勤日数や継続勤務期間にもカウントされません。

なお、出勤停止の日数については、特に法律上の上限などはありませんが、数日から10日程度とするのが一般的です。

諭旨解雇・懲戒解雇

諭旨解雇は、次に述べる懲戒解雇に相当する事案ながらも、過去の実績や貢献度などを考慮して若干の軽減がなされ、本人に納得してもらう形での解雇を指します。実務上の最も大きな違いは、離職票の離職理由に「自己都合」と記載される点です。

懲戒解雇は、処分の中で最も重く、「犯罪を犯した」「会社に対する背任行為があった」など重大な処罰が相当とされる場合において、即日解雇を命じる処分です。離職票の離職理由にも「懲戒解雇」と記載され、以降の再就職に大きく影響が出ます。

いずれにしても、遅刻だけを理由に解雇までの処分に及ぶことはほぼ考えられず、また悪質な遅刻を繰り返して最終的に解雇に至る場合でも、先に挙げた戒告・譴責や減給などの処分を段階的に踏む必要があります。

フレックスタイム制の遅刻の扱い

フレックスタイム制は、清算期間内における総労働時間枠を設定し日々の労働時間を労働者が自由に設定できる制度です。そのため、清算期間における総労働時間さえ満たしていれば基本的に不就労控除は発生しません。

ただし、フレックスタイム制には労働者が自由に設定できるフレキシブルタイムと、必ず出勤すべきコアタイムがあります。よって、コアタイムに対する遅刻に対しては、不就労控除や懲戒処分の対象とすることが可能です。

なお、実労働時間が清算期間内に定めた総労働時間に満たなかった場合には、不就労控除をすることは可能ですが、実際には不足分を翌月の総労働時間に繰り越して、上乗せする運用とするのが一般的です。

裁量労働制の遅刻の扱い

一方で裁量労働制は、業務遂行の方法や時間配分を労働者に委ね、実労働時間に関わらず、みなし労働時間として定めた時間分労働したものとみなす制度です。よって、通常の労働時間制による時間管理はできず、基本的に遅刻や早退は生じません。

ただし、深夜労働抑制や一定の職場規律保持のため、始業・終業の範囲を提示し(強制はできません)、大幅に始業時間がズレそうな場合は連絡してもらう程度の運用は可能と言えます。

遅刻の対応は勤怠管理システムが有効

遅刻に対する対応は従業員にとってマイナスとなることが多く、法令の趣旨やその他の規定に反しないように注意して具体的な運用を定め、就業規則等で周知する必要があります。規定や実際の運用を誤ると、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。

控除額の計算やフレックスタイム制における運用など、手作業による管理では煩雑でミスも起きやすくなります。

勤怠管理システムを導入することで、月ごとに控除額を計算する場合でもシステム側で自動計算できるため、手間をかけずに適切に処理が可能で、トラブル防止にもつながります。

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