就業規則の変更手続きは、基本的には作成手続きと同じ流れで進めることになります。
ただし、その変更内容をめぐっては労使トラブルに発展するケースも多く、より慎重に進める必要があります。

この記事では、就業規則変更届の手続きの流れを分かりやすく解説しつつ、変更によるトラブルを防ぐための注意点についてお伝えします。

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就業規則の変更が必要になる場合とは?

就業規則の作成・届出義務がある事業場において、就業規則の内容に変更が生じた場合は、管轄の労働基準監督署へ変更の届出が必要となります。

変更の届出が必要な就業規則の範囲

就業規則の本則であるか別規定であるかに関わらず、変更の内容が就業規則の「絶対的/相対的必要記載事項」に関するものであれば、すべて届け出る必要があります。
具体的な「絶対的/相対的記載事項」は、以下の表のとおりです。

就業規則の記載事項

別規定の例を挙げると、「賃金規程」「退職金規程」「安全衛生管理規程」などが該当します。

また、「パートタイム就業規則」など雇用形態別の規程があり、変更の内容がその規程対象者にも及ぶ場合も、本則と共に届け出る必要があります。

法改正が行われた場合

ほぼ全ての会社において変更が必要となるのは、法改正が行われたタイミングです。

時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化など、近年は働き方改革の流れを受けて毎年のように労働関連法規が改正されています。

現行の就業規則の内容が改正後の法の基準を下回っている場合は、改正法が施行された時点で労働基準法違反となってしまうため、早急に変更が必要です。

また、法改正による変更の場合、施行日直前は届出が集中するため、混雑を避けるために早めに手続を済ませることをお勧めします。

就業規則の内容が会社の実態に合っていない場合

就業規則の内容が会社の実際の運用とかけ離れていたり、矛盾していたりする場合は、実態に合うように変更する必要があります。

よくあるケースとしては、作成義務を果たすためだけに厚生労働省などから提供されている「モデル就業規則」をカスタマイズすることなくそのまま使用している場合で、会社の実態とかけ離れた就業規則となっている可能性が高くなります。

「モデル就業規則」というのはあくまでもテンプレートに過ぎないため、会社ごとの実態に則した変更が必要です。

新制度を導入する場合

従業員の労働条件改善や生産性向上を目的として、新制度を導入する場合も就業規則に変更が生じます。

例としては、無駄な時間外労働と労務コストの削減を目的に「変形労働時間制」や「裁量労働制」を導入する場合などが考えられます。

こうした制度は、労働基準法に要件や運用方法が定められているため、厳格に法に則った内容を規定する必要があります。

また、従業員の福利厚生のために「サバティカル休暇」のような休暇を設ける場合は、特に法で内容が規定されているわけではありませんが、運用を統一するためにも就業規則に明文化しておく必要があります。

賃金体系を変更する場合

「固定残業代」や「成果報酬型」を導入する場合は、「賃金規程」などの変更が必要です。

賃金についての変更は、直接労働者の利益に関係してくるため、より厳格な手続きが求められます。

また、固定残業代を導入して基本給に相当する部分が減少する場合などは、時間単位に換算した賃金が、毎年改定される都道府県別の最低賃金の水準を下回らないよう注意が必要です。

経営状況が悪化した場合

経営状態の悪化によりやむを得ず人件費削減の必要に迫られ、基本給の減給や手当の廃止などを行う場合も、就業規則の変更が必要です。

この場合は、ほぼ間違いなく「不利益変更」に該当するため、認められる変更であるか見極める必要があります。

なお、不利益変更の注意点や対策については、後ほど詳しく解説します。

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就業規則変更の手続きの流れ

基本的な流れは、作成時と同じと考えて差し支えありません。

就業規則の変更案作成

まず、変更内容の適用範囲、つまり全従業員が対象か特定の社員のみが対象かを検討します。全従業員が対象であるにも関わらず、「パートタイム就業規則」などの変更が漏れないよう、注意しましょう。

続いて「変更内容は違法でないか」というリーガルチェックを行います。
専門家である社会保険労務士に依頼するのが確実です。

最後に「変更内容が、他の規定と矛盾しないか」という点を確認し、変更案を作成します。

労働者代表の意見聴取及び意見書への署名

過半数労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者に変更案を提示して意見を聴取し、意見書に意見内容の記載・署名をもらいます。

なお、あくまでも必要とされるのは「意見の聴取」であり、変更に対する「同意」までは求められていないことから、たとえ「反対の意見」が付されていても、意見書としては有効なものとなります。

ただし、変更が「不利益変更」に該当する場合、内容に合理性があり認められるかはまた別問題であるため、切り離して考える必要があります。

意見書の書き方については、特に決まった様式はありませんが、労働局などからテンプレートが提供されています。

就業規則意見書(Word版)(PDF版)|東京労働局

労働基準監督署へ変更届を提出

事業場ごとに、「変更後の就業規則2部(労働基準監督署保管用と自社用)」「変更届出書」「意見書」を管轄労働基準監督署に持参もしくは郵送して届け出ます。

なお、本社と各事業場の就業規則が同一である場合は、本社で一括して届け出ることが可能ですが、その場合でも部数は事業場数×2部必要で、意見書も事業場ごとに作成しなくてはなりません。

変更届も意見書と同様に、特に決まった様式はないものの、労働局などからテンプレートが提供されています。

就業規則(変更)届(Word版)(PDF版)|東京労働局

変更箇所が少ない場合は、変更届の新旧対照表に変更箇所の抜粋を記載しますが、全面改訂の場合は新旧対照表に「全面改訂である」旨だけを明記します。

なお、届出そのものは就業規則の効力とは関係ないため、就業規則に記載した施行日前の変更届であっても問題なく受理されます。

変更後の就業規則の内容を周知する

変更後の規定内容は、従業員全員に周知して初めて有効なものとして扱われます。
正しい手続きで届出していても、周知がされない間は運用できないため注意が必要です。

周知方法として認められているのは、以下の3つです。

  1. 事業所内の見やすい場所に掲示または備え付ける
    • 役員室に備え付けたり、施錠した金庫に保管したりすることは認められません
  2. 書面で従業員全員に交付する
    • 確実な方法ですが、印刷コストがかかります
  3. 電子データとして保存し、従業員がいつでも閲覧可能な状態にする
    • 特定の管理者しか知り得ないパスワードで閲覧制限をかけることは認められません

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就業規則「不利益変更」のポイント

会社が一方的に、就業規則の内容を労働者の不利益となるように変更することは、基本的には認められず、労働者の同意なしに不利益変更を行うには厳格な要件が必要とされます。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法第9条・第10条|法令検索e-Gov

上記の通り、労働者個別の同意を得ることなく不利益変更が有効となるためには、「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」などの事情に照らして合理性が必要です。

一方的な不利益変更はリスクが大きい

実際の判例においても、合理性のない一方的な不利益変更が無効とされ、会社に遡って賃金の支払いや休日の付与などを命じたものがいくつも存在します。

【スーパーマーケット東京豊洲店事件|東京地方裁判所平成28年9月27日判決】
基本給を減額して固定残業手当を増やす就業規則の変更を無効と判断し、会社に期間相当分の賃金支払を命じた事件。

【クリスタル観光バス事件|大阪地方裁判所平成19年1月19日判決】
成果主義導入により著しく賃金が減額した従業員数人が就業規則変更の無効を訴えたのに対し、変更の合理性は認めつつも減額の不利益があまりに大きい従業員については変更の効力が及ばないとした事件。

対策1:労働者から同意を取り付ける

労働者全員参加の説明会もしくは個別面談を行い、「不利益変更の必要性」や「変更後の内容」について理解を求める必要があります。

「意見書」のように労働者代表ではなく、労働者全員に「同意書」に署名してもらうようにしましょう。

また、説明会などを開催する場合は、質疑応答の場を設け、議事録を作成して記録として残すことが重要です。

対策2:代替措置や経過措置を設ける

いかに変更の合理性や必要性を理解したところで、従業員にとっては急激な不利益変更は受け入れがたく、また現実に生活を圧迫しかねません。
最終的には変更後の運用に移行するにしても、ソフトランディングが求められます。

たとえば、賃金の減額などであれば代わりに休暇を設ける、賃金体系の変更であれば経過期間を設けて段階的に移行するなどの措置が考えられます。

就業規則変更のタイミングで勤怠管理システムを導入する

新制度の導入や法改正に合わせ、就業規則の大幅な変更を行う際は、労務管理を見直す機会でもあります。

業務の効率化や生産性アップが目的の変更の場合は、同時に勤怠管理システムを導入することでレバレッジ効果を得ることができます。

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