就業規則は、会社が法律の範囲内でその内容を自由に定めることができ、変更することも認められています。ただし、従業員に新たな義務を課したり既存の権益を奪うことになる変更は「不利益変更」となり、会社が一方的に変更することはできません。

この記事では、具体的にどのようなケースが不利益変更に該当するのか、該当した場合はどのような手続きを踏む必要があるのか、といった点についてわかりやすく解説します。

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労働条件の変更とは

使用者と個々の労働者との間で交わされている労働契約の内容を変更するには、個別に労働者の同意を得なくてはなりません。

また、労働者からの同意を得ることなく、就業規則の内容を労働者の不利益になるよう変更することは認められていません。

ただし、その変更内容に合理性があり、かつ変更後の就業規則が労働者に周知されている場合は、不利益変更も有効とみなされます。そしてこの場合、変更後の就業規則は、個別に同意していない労働者も含めた全労働者を拘束するものとなります。

就業規則の変更手続き

変更後の内容が労働者にとって不利益かどうかに関わらず、就業規則を変更する場合は、以下の手順に沿って進めることになります。

  1. 変更案を作成する
  2. 労働者代表の意見を聞く
  3. 管轄労働基準監督署に変更届を提出する
  4. 変更後の就業規則を労働者に周知する

なお、「2. 労働者代表の意見を聞く」については、同意や協議までは求められておらず、たとえ変更に異を唱えていたとしても「意見を聞いた」事実のみで足ります。

労働組合による包括的同意とは

会社に労働組合があり、その労働組合と会社間で労働協約により適法に労働条件の変更がなされた場合は、変更後の内容は個別に同意していない組合員にも及びます。これを「包括的同意」と呼びます。

また、その労働組合に事業場の労働者の3/4以上が加入している場合、労働協約による労働条件の変更は、非組合員にも及びます。

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不利益変更となるケース

基本的には、労働者に新たな義務を課したり、既存の権益を失わせる結果となる変更は、不利益変更とされます。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 賃金の引き下げ
  • 労働時間の変更
  • 年間休日を減らす
  • 賃金制度の変更
  • みなし残業代の導入

賃金の引き下げ

賃金の引き下げは、最も典型的な不利益変更と言えます。基本給の算定基準の引き下げや手当の廃止などが該当します。「減給しなければ企業経営が危うくなり、倒産の可能性がある」など、やむを得ない事情がない限り、認められる可能性は低いでしょう。

役職手当については、人事考課による降格に伴う減額などであれば、人事権の行使の範囲として問題ありませんが、人事考課を経ることなく役職手当のみを減額・廃止する場合は、不利益変更に該当します。

賞与については、会社が任意で支給するものであり、その支給の有無や金額の増減については自由に行うことができるのが原則です。ただし、就業規則等に具体的な算定方法が記載されている場合は、支払義務を負っているとみなされ、減額となる見直しは不利益変更に該当します。

労働時間の変更

労働時間の変更は、単に9:00~17:00の就業時間を8:00~16:00に変更するといったように、所定労働時間の変動を伴わない場合は、まず不利益変更とは言えないでしょう。ただし、あまりにも極端な時間帯の変更は、不利益変更とみなされる可能性があります。

早朝残業や深夜残業が発生しない限り、高い確率で変更が認められます。従業員にとっても通勤ラッシュを避けられるので、心身の消耗やストレスの蓄積を抑えられます。

一方で、所定労働時間の延長を伴う場合は、法定労働時間を超えていなくても不利益変更に該当します。また長くなる場合に限らす、所定労働時間が短縮される場合でも、短縮分の賃金が減少するのであれば、不利益変更と言えます。

年間休日を減らす

年間休日を減少させる場合は、不利益変更とみなされる可能性が高くなります。具体的には、以下のような変更が該当します。

  • 週休二日制から週休一日制への移行
  • 特別休暇(法定外休暇)の廃止
  • 特別休暇の取得要件の厳格化

なお、年次有給休暇の計画的付与(いわゆる「計画年休」)は不利益変更に該当しないのか?という声をよく聞きますが、そもそも計画年休の導入には労使協定の締結が必要であり、その時点で労働者の同意を得ていることになるため、不利益変更の問題は生じません。

賃金制度の変更

年功序列制から成果主義型の賃金制度への移行は、歓迎する従業員も多い一方で、勤続年数の長い社員にとっては将来的な期待権が失われ、引いては人生設計にも影響を及ぼす重大な問題になりかねないため、不利益変更に該当すると言えます。

こうした新制度への移行は、導入するメリット・デメリットや評価基準の明確化、導入するに至った経緯などに関して丁寧に説明を重ね、従業員からの理解を得るとともに、不利益を被る従業員への代替措置などのフォローも重要となります。

みなし残業代(固定残業代)の導入

みなし残業時間制とは、毎月の賃金や残業代に一定時間分の残業代を含んで支給する制度です。たとえば、平均して毎月30時間前後時間外労働が発生している場合、30時間分の固定残業代を基本給と共に毎月支給する形となります。

ただし、基本給を減額し、減額分を固定残業代として計上するといった変更は、たとえ給与総額が変動していないとしても、基本給の減額という点において不利益変更に該当します。

なお、みなし残業代を導入していたとしても、実残業時間がみなし残業時間を超えた場合は、差額分の支払いが必要となります。このため、みなし残業代という制度自体に、残業代を削減する効果は一切ありません。

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不利益変更が認められる合理的な理由とは

不利益変更の理由が合理的か否かは、個別具体的なケースに応じて結論が異なりますが、基本的に以下の事情に照らし合わせて判断されることになります。

  • 労働者が受ける不利益の程度
  • 使用者側の変更の必要性
  • 変更後の内容の相当性
  • 代替措置その他の労働条件の改善状況
  • 労働組合等との交渉の状況・経緯

なお、上記のすべてにおいて認められない限りは合理性が否定されるというわけではなく、複数の要素を総合的に判断されることになります。

労働者が受ける不利益の程度

就業規則の変更によって、どの程度労働者に不利益が被るかという観点になります。賃金の減額であれば何%下がったか、労働時間の変更であればトータルで何時間増えた(減った)か、などを判断します。

必要最低限の変更であり、不利益の度合いが大きすぎないことが重要です。たとえば、経営危機による賃金引き下げなどは、理由自体には合理性があるものの、必要以上の引き下げは認められない可能性が高いと言えます。

使用者側の変更の必要性

以下のような具体性が必要です。

  • 法改正対応のため
  • 業績の急激な悪化による
  • 会社組織の変更による

反対に、「時代の流れに対応するため」「労働者間の競争を促すため」のような抽象的な理由は認められない可能性が高いでしょう。

変更後の内容の相当性

内容相当性に関しては、主に以下の2点がポイントとなります。

  • 特定の従業員にのみ不利益が及ぶ変更(いわゆる「狙い撃ち」)が行われていないか
  • 同業他社と比べて著しく低い労働水準となっていないか

前者については、年齢や性別、組合への加入・非加入などによって、変更の適用・非適用が変わるケースが考えられます。

代替措置その他の労働条件の改善状況

代替処置は、特定の労働条件に関して不利益変更を行う代わりに、別の労働条件を手厚くすることを指します。たとえば、賃金を減額する代わりに、「特別休暇を設ける」「1日の労働時間を短縮する」などが考えられます。

この代替措置の有無は、合理性判断において特に重要な要素とされています。

労働組合等との交渉の状況・経緯

労働組合など、労働者側と十分に協議を尽くしたかも重要な要素です。労働組合が存在しない場合でも、労働者代表との話し合いや従業員全員参加の説明会などの開催状況も判断材料となります。

なお、協議の場においては、不利益変更の必要性の根拠となるような経営資料なども、できる限り提示するのが望ましいでしょう。

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就業規則の不利益変更でよくある質問

就業規則の不利益変更に関して、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q
賃金を引き下げる場合の合理的な理由とは?
Q
役員の報酬や手当の減額は不利益変更?

就業規則の不利益変更は慎重かつ柔軟に

働き方改革やコロナ禍など社会情勢の変動により、既存の労働条件・就業規則の見直しを迫られるケースも珍しくありません。やむを得ず不利益変更が必要となる場合でも、「合理性」について従業員に説明を尽くし、理解を得る努力が求められます。

また、説明の際に提示する資料の一つとして、勤怠管理システムの勤怠記録など、客観的なデータを提示することも有効な方法です。

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