裁量労働制はほかの類似制度と比較することで、メリット・デメリットがスッキリ整理できます。

働き方改革の議論の俎上にあがったことで注目を集めた裁量労働制ですが、同時に多くの問題点も浮き彫りになりました。

特に労働者に対してはマイナスのイメージが植え付けられてしまい、導入に二の足を踏んでいる会社も少なくありません。

裁量労働制の本質を正しく理解し、労働者も納得の上で導入できれば、トラブルのない運用も可能になります。

ステップ1:2種類の裁量労働制を理解する

裁量労働制とは、実労働時間に関係なくあらかじめ労使協定で定めた時間分だけ労働したものとみなされる制度です。
賃金も実労働時間に関係なく、定めた時間分労働したものとみなして計算します。

労働時間については、会社から指示されるのではなく、労働者本人が決めることができます。労働者は、決められた時間に出勤し、決まった時間まで働くというルールがないため、時間を気にせず働くことができます。

例えば、みなし労働時間を7時間と設定した場合、実労働時間が4時間でも10時間でも労働時間は7時間として扱われ、基本的には減給や残業代の対象にはなりません。

長時間労働、短時間労働も可能であり、始業時刻を自分で決められるので遅刻という概念もなく、自由度の高い働き方です。

実労働時間が反映されない点は管理職と似ていますが、両者はまったく別物であり、裁量労働制はみなし労働時間制の中の制度です。

裁量労働制のメリット・デメリット

裁量労働制には専門業務型と企画業務型の2種類があり、要件や手続きに違いはあるものの、基本的なメリット・デメリットは共通しています。

会社側のメリット|人件費の安定、生産性向上

会社側のメリットとして大きいのは、人件費が安定することです。
裁量労働制を導入した場合、あらかじめ労使協定で定めた時間分を労働者が働いたとみなして計算し賃金を支払います。

そのため、人件費コストが安定して管理がしやすくなります。
ただし、休日出勤や深夜出勤があった場合は、追加で残業代を払う必要があります。

また、生産性の向上も期待できます。
従来の制度とは異なり、労働者は残業しても給与が増えないため、より短時間で仕事を終了させるという意識が向上します。

早く仕事を終えることができれば、その分早く帰宅できるというメリットを社員が意識できれば、社員の生産性を上げる動機づけにつながります。

労働者のメリット|柔軟な働き方

労働者にとっては、始業時刻と終了時刻を自由に決めることができ、自分のライフサイクルに応じた働き方ができるというメリットがあります。

また、業務量以上の拘束時間が減るため、仕事の成果をしっかり出せば、短時間で仕事を終了させ、早く帰宅することが可能です。

会社側のデメリット|労務管理や導入手続きが煩雑

人件費の管理は楽になる一方、労働者が始業時刻や終了時刻を決め、自由な時間に働くことになるため、労働者の健康管理や労務管理が極めて難しくなります。

また、労働者ヘの業務の割り当てが、みなし労働時間とつり合いがとれていないケースでは、長時間労働を誘発して習慣化する恐れがあります。

さらに、会社側のデメリットとして大きいのは、導入手続きが非常に煩雑である点です。
労使協定で詳細な事項を取り決め、労働基準監督署への届出が必要であり、導入するための時間や手間を要することは避けられません。

労働者のデメリット|残業代の減少、長時間労働のおそれ

労働者にとっては、繁忙期や業務が多い日でも、深夜労働と休日勤務以外の残業代が出ないのがデメリットです。
導入前と比較すると、賃金総額はおおむねダウンします。

また、長時間労働に陥りやすく、とくに自己管理能力の乏しい労働者は生産性が上がらないため、その傾向が強くなります。

2種類の裁量労働制早わかり比較表

専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制は、労働時間の取扱いについては同じですが、対象業務、対象事業場、導入手順などに違いがあります。

とくに、企画業務型裁量労働制を導入する場合は、労使委員会の設立と決議が必要になる点と、導入後も労働基準監督署への報告が必要になる点が、専門業務型裁量労働制と大きく異なります。

専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制
対象業務業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難な業務
(対象19業務は後述)
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務
対象事業場対象業務のある事業場企業全体に影響を及ぼす事業運営上の重要な決定が行われる事業場
(本社や本店など事業運営上の重要事項を決定する事業場)
対象労働者対象業務に従事する労働者対象業務に従事する労働者であって、この制度によることに同意したもの
導入手順労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出る労使委員会の委員の5分の4以上の多数により議決された決議内容を所轄労働基準監督署長に届け出る
事後手続きなし決議が行われた日から起算して6か月以内ごとに1回、所轄労働基準監督署長へ定期報告を行う
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の比較

19業務限定の専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、労働基準法第38条の3に基づく制度です。

業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として定められた業務から対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。

専門業務型裁量労働制の対象となるのは、以下の19業務です。

  1. 新商品・新技術の研究開発、または人文科学・自然科学の研究の業務
  2. 情報処理システムの分析・設計の業務
  3. 新聞・出版の事業における、記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
  4. デザイナーの業務
  5. 放送番組、映画等の制作の事業における、プロデューサーまたはディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作業務
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融工学等の知識を用いる金融商品の開発業務
  12. 大学での教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務

事業運営の決定権を持つ事業場限定の企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、本社や本店など事業運営の決定権を持つ事業場の対象業務につく労働者に対して、労使委員会であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。

専門業務型と違って、要件を満たす事業場の労働者であれば、ある程度幅広い労働者が対象者になり得ます。

事業運営にとっての重要事項の決定権をもつ立場を利用し、企画業務型裁量労働制そのものが、恣意的に運用される恐れがあります。

そのため、個々の労働者の同意や労使委員会の決議など、企画業務型裁量労働制の導入は、厳格な導入手続きが要求されています。

対象業務とするには、以下の4要件が必要です。

  1. 事業の運営に関する事項についての業務であること。
  2. 企画、立案、調査および分析の業務であること
  3. 業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務であること
  4. 業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないことと業務であること

ステップ2:ほかの制度との違いを理解する

裁量労働制は、メリット・デメリットという観点からほかの類似した労働時間制と比較することが大切です。

事業場外みなし労働時間制との違い

事業場外みなし労働時間制は、裁量労働制と同じ「みなし労働時間制」のひとつです。
事業場外労働みなし労働時間制とは、外まわりの営業職など事業場外で労働する場合に導入される制度です。

事業場外で業務に従事しており、かつ使用者の具体的な指揮監督ができずに労働時間を算定するのが困難な業務が対象になります。
裁量労働制のように、対象業務が制限されていないのも特徴です。

裁量労働制事業場外みなし労働時間制
対象労働者専門業務型は対象業務、企画業務型は対象事業場が限定される事業場の外で業務に従事する者(外回りの営業職や記者など)
労働時間協定または委員会決議で定めた時間が労働時間となる所定労働時間+業務上通常必要とされる時間
メリット労働時間の管理がしやすい職種や事業場による制限がない
デメリット適用のハードルが高い「労働時間を算定しがたい事業場外業務」を巡って労使トラブルに発展しやすい
裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の比較

事業場外みなし労働時間制についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
>>事業場外みなし労働時間制とは?残業時間や残業代について解説

フレックスタイム制との違い

裁量労働制もフレックスタイム制も、労働時間の設定と管理が労働者に委ねられるという点は同じですが、フレックスタイム制では「みなし労働時間」の設定がありません。

よって、労働者はフレックスタイム制で定められた所定労働時間を必ず労働する必要があります。
また、フレックスタイム制では対象労働者の制限はありません。

裁量労働制フレックスタイム制
対象労働者専門業務型は対象業務、企画業務型は対象事業場が限定される制限なし
所定労働時間みなし労働時間が所定労働時間となる清算期間内の所定労働時間の中で労働時間を調整する
時間外労働基本的に発生しない実労働時間が清算期間内の所定労働時間を超えた部分が時間外労働となる
メリット労働時間の管理がしやすい幅広く適用でき、所定労働時間と実労働時間の差分が賃金に反映される
デメリットみなし労働時間と実労働時間の乖離が大きいと、労働者からの反発を招く労働者によっては時間管理がルーズになる
裁量労働制とフレックスタイム制の比較

フレックスタイム制についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
>>フレックスタイム制|メリットを活かしながらデメリットに対策を

高度プロフェッショナル制度との違い

高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件を満たす高度な専門知識を持っている労働者を対象に、原則、労働時間に関する制限を撤廃する制度です。

高度プロフェッショナル制度は、より業務が限定され、基本的に労働基準法の適用が及ばないのが特徴です。

裁量労働制高度プロフェッショナル制度
対象労働者専門業務型は対象業務、企画業務型は対象事業場が限定される高度の専門的知識等を要する4業務に限定され、年収要件もある
休日手当
深夜労働手当
割増賃金の対象となる発生しない
メリット労働者の技能や年収によって適用が左右されない能力成果主義によって生産性が向上する
デメリットみなし労働時間の時間設定が短過ぎると、生産性が低下する労働基準法を逸脱する長時間・連続勤務を誘発する
裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の比較

高度プロフェッショナル制度についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
>>高度プロフェッショナル制度とは? 対象職種や導入要件について

ステップ3:導入手続きを理解する

専門業務裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、導入手続きに違いがあり、企画業務型の方がより厳格な手続きが求められます。

専門業務型裁量労働制の導入手順

専門業務型裁量労働制の導入手順は、以下の通りです。

  1. 下記の事項を全て明記した労使協定を定めます
    1. 対象業務(対象19業務)
    2. みなし労働時間(対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間)
    3. 対象業務を遂行する手段や時間配分の決定等に関し、対象労働者に具体的な指示をしないこと
    4. 対象労働者の労働時間の状況の把握方法と把握した労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
    5. 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
    6. 協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
    7. 4.及び5.に関し、把握した労働時間の状況と講じた健康・福祉確保措置及び苦情処理の記録を協定の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること
  2. 労使協定を管轄の労働基準監督署に届け出ます
  3. 労使協定を労働者に周知します

(参考:「専門業務型裁量労働制」導入マニュアル|東京労働局

企画業務型裁量労働制の導入手順

企画業務型裁量労働制の導入手順は下記のとおりです。

  1. 以下の要件に沿って労使委員会を設置する
    1. 委員会の委員の半数は、事業場にある労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者に任期を定めて指名されていること
    2. 委員会の議事において、議事録が作成・保存されるとともに労働者に対する周知が図られていること
  2. 労使委員会にて出席している労使委員の5分の4以上の多数により、以下の事項を決議する
    1. 対象業務
    2. 対象労働者の範囲
    3. みなし労働時間
    4. 対象労働者の健康・福祉確保の措置の具体的内容
    5. 対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
    6. 労働者の同意を得なければならない旨及びその手順、不労働者に不利益な取り扱いをしてはならない旨
  3. 労使委員会の決議を所轄の労働基準監督署長に届け出る
  4. 対象労働者に同意を得る
  5. 制度を実施し、決議の日から6か月以内ごとに1回、所轄労働基準監督署長へ定期報告を行う

(参考:「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために|東京労働局

ステップ4:運用上の注意点を理解する

裁量労働制を「残業代無しで働かせられる制度」という認識で導入すると、恣意的な運用になり労働者の勤労意欲や健康面に悪影響を及ぼします。
裁量労働制の運用は、制度そのものの本質をよく理解して運用する必要があります。

残業代が発生するケースもある

裁量労働制において、週40時間、1日8時間と定められている法定労働時間は、裁量労働制のみなし労働時間にも適用されます。

つまり、設定したみなし労働時間が9時間であれば常に1時間分の時間外労働が発生し、25%増以上の割増賃金を支払わなければなりません。

休日手当、深夜労働手当は必要

「何時間労働したか」をみなす制度であって、「いつ労働したか」までみなす制度ではありません。

よって、法定休日に働けば35%増以上の割増賃金(休日手当)が、深夜に働けば25%増以上の割増賃金(深夜労働手当)が発生します。

裁量労働制の導入には、勤怠管理システムが必須

裁量労働時間制を導入することで残業代の計算が楽になるとはいえ、休日出勤、深夜労働の把握や長時間労働に対するメンタルヘルスケアなど労働時間の管理は必要です。

また、適切なみなし労働時間を設定するには、勤怠管理システムによる定量的な分析が非常に有効です。

裁量労働制をスムーズな運営に、勤怠管理システムは不可欠です。
勤怠管理システムの選定・比較ナビでは、さまざまな勤怠管理システムを紹介していますので、ぜひ一度ご覧ください。

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