有給休暇の買い取りは、原則的には認められません。
例外的に買い取りが認められるケースはありますが、会社が買い取りに応じる義務はありません。

どのような場合に認められるのか、買い取る場合はいくらで買い取るのが適切なのか、「有給休暇の買い取り」に関するさまざまな疑問について解説します。

年次有給休暇制度についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
>>労働基準法に違反しない有給休暇の与え方|7つのテーマで丸わかり

有給休暇の買い取りはなぜ違法なのか?

一言で言えば「有給休暇の制度意義が失われるから」です。

有給休暇は、労働者の心身の疲れを取ってリフレッシュを図り、勤務意欲を継続させるというのが本来の目的です。

しかし、制度としては長らく十分に活用されていない状態が続いていました。
そこで、2019年4月より全ての企業において、年次有給休暇5日以上の取得が義務づけられ、ようやく取得率も改善が見え始めました。

有給休暇の買い取りを認めることで、使用者に「買い取ってしまえば、有給休暇を取得させなくても問題ない」という誤った認識を与えることになり、制度自体の崩壊につながります。

労働者からの申し出であっても、断らなければならない

労働者からの「残っている有給休暇を買い取って欲しい」との申し出を、会社が安易に受け入れると、労働者に「有給休暇は換金できる」と誤解させてしまいます。

年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である。

行政通達(昭和30年11月31日、基収4718号)

本通達では、事前に会社が有給休暇の買い取りを約束して取得日数を減らしたり、また与えないのは労働基準法第39条違反としています。

使用者が有給休暇を強制的に買い取るか、労働者から買い取り希望があったかを問わず、違法となるため注意が必要です。

有給休暇の買い取りが認められる3つのケース

労働基準法や行政通達の趣旨を踏まえると、有給休暇の買い取りが労働者にとって不利にならず、労働者本人の権利を奪うことにつながらない場合は、例外的に買い取りが認められます。
具体的には、以下の3つのケースが該当します。

  1. 法定外有給休暇の場合
  2. 時効により消滅してしまう場合
  3. 退職により消化しきれない場合

ただし、上記ケースにおいても、会社は「有給休暇を必ず買い取らなければならない」という義務を負うわけではありません。

あくまでも、労働者からの買い取り希望の申し出などに対して、会社が「買い取ることが認められている」というだけです。

認められるケース1:法定外有給休暇の場合

会社が任意に付与している法定外の有給休暇については、買い取りが制限されていません。

全ての会社は、労働者に対して労働基準法で定められている日数分の有給休暇を付与しなければなりません。

会社によっては、法定分を上回る有給休暇を任意で付与しているケースがあり、この部分については特に制限は設けられていません。

たとえば、労働者の福利厚生の向上を目的に独自の有給休暇を設けており、入社した初年度に合計12日(法定休日10日+2日)を与えているようなケースです。
上記のケースでは、法定分を上回る2日分の有給休暇に関して、買い取りが認められます。

労働者は法定分の有給休暇の取得が制限されているわけではなく、有給休暇の制度趣旨を失わせるものではないからです。

認められるケース2:時効により消滅してしまう場合

有給休暇の残日数が、消滅時効までの日数を上回っている場合は、消滅する部分につき買い取りが認められています。

有給休暇は、付与されてから2年を経過すると時効により消滅し、消滅した有給休暇については取得できなくなります。

時効消滅までの期日が迫っており、付与されている有給休暇をすべて取得したとしても消化しきれない部分が発生する場合は、この部分につき買い取りが認められています。

たとえば、付与日数を5日残しているにもかかわらず、3日後に消滅時効を迎える場合において、物理的に取得不能な2日分につき買い取りが可能です。
ただし、会社側は必ずしも買い取り要請に応じる必要はありません。

実務的にこのケースでは、残りの3日につき有給取得させ(時季変更権の行使は不可)、2日分の買い取りの諾否を判断することになります。

なお、既に時効を迎えて消滅してしまった有給休暇は、もはや有効な権利として存在しないため、遡って買い取ることはできません。

認められるケース3:退職により消化しきれない場合

退職が決まっており、予定退職日までに消化しきれない有給休暇についても、買い取りが認められています。
時効による消滅の場合と同じ考え方に基づくものです。

会社都合や自己都合に関わらず、労働者が有給休暇を使い切ってから退職するというケースは珍しくありません。

退職前の有給休暇については、会社の時季変更権が行使できず、退職日まで当該労働者が会社に在籍し続けるため、社会保険料のコストがかかり続けます。

この場合、労働者の同意を得ることを条件に、残りの有給休暇日数を全て買い取り、早期退職してもらうことによって、社会保険料の削減が可能です。

ただし、労働者から「退職日まで残りの日は有給休暇を取得します」という申し出があった場合は、会社がこれを拒否することはできません。

また、「有給休暇を買い取るから早く退職して欲しい」と、会社から勧奨することも違法です。

定年再雇用の場合は買い取り不可

定年後再雇用の場合は、有給休暇に関して継続雇用とみなされるため、退職時の買い取りは認められません。

超少子高齢化社会への対策から昨今、定年後再雇用制度を採用している会社が増えています。
定年後再雇用制度が導入されている場合、有給休暇の取扱いについて再雇用された労働者はそのまま会社に継続勤務しているとみなされて、継続勤務年数が通算されます。

よって、年次有給休暇は定年前から通算した勤続年数に応じた日数分が付与されます。
また、定年前に付与された未消化分の年次有給休暇も、時効はリセットされず進行します。

このように、定年後再雇用は一般的な退職の場合と異なり、有給休暇が消滅するわけではないため、買い取りは認められていません。

認められるケースでも、会社が応じる義務はない

買い取りが認められる3つのケースに該当し、労働者から有給買い取りの申し出があったとしても、会社は買い取りに応じる義務はありません。

ただし、就業規則などに「時効や退職により期日までに消化できない有給休暇については、会社がこれを買い取る」と明記されている場合は、有給休暇の買い取る義務が発生します。

労働者とのトラブル防止の観点から、有給休暇の買い取り価格の計算方法(後述します)などを含めて、就業規則にきちんと盛り込んでおくのが重要です。

有給休暇の買い取り価格はいくら?|支払い方法による注意点

有給休暇の買い取り価格については、労働基準法、その他の法律や行政通達などにより、特に規定や基準は設けられていないため、会社が任意に決定可能です。

有給取得時の賃金に合わせるのが一般的

有給休暇を買い取る際の金額については、有給休暇取得時の賃金と同額を支払うのが一般的です。
具体的には、以下の3パターンです。

  1. 通常勤務日と同額を支払う
  2. 直近3ヶ月の平均賃金を支払う
  3. 標準報酬日額を支払う

会社がどの方式を選択するかは任意ですが、あまりに低いと当該労働者が不満を持ち、必要以上に高くても他の労働者に不公平感を生むため、常識的な範囲で設定するのが重要です。

有給休暇の賃金についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
>>有給休暇の賃金額の決め方|どれを選ぶべき?

買い取った場合は、賞与支払届が必要になる場合も

有給休暇を買い取った場合、賞与支払届が必要になるケースがあります。
「賞与支払届」とは、賞与を支払う会社が年金事務所などに提出しなければならない書類です。

有給休暇を買い取った場合の支払方法は、買い取りのタイミングによって「給与」「賞与」「退職金」のいずれかに該当します。

法定外有給の買い取り、時効による買い取りの場合は、当月給与に上乗せするか賞与として支払いします。
いずれの場合も賞与支払届の提出が必要になります。

一方、退職時の買い取りの場合は、最終給与に上乗せするか退職金として支払うことになります。

給与に上乗せする場合は、社会保険料や賞与支払届が必要ですが、退職後に退職金として支払う場合は、社会保険料も賞与支払届も不要です。

税法上も取り扱いが違う

有給休暇を買い取った場合、税法上は、給与の上乗せまたは賞与として支払う場合は「給与所得」となります。

一方、労働者の退職時に買い取り、退職金として支払う場合は「退職所得」になります。

退職所得は給与所得に比べて、控除や課税対象額の面で優遇されています。
労働者の便宜を図って、退職時の買い取りは退職金として支払うのがおすすめです。

有給休暇は買い取りよりも取得してもらうのが理想

有給休暇の買い取りに応じるか、応じる場合はいくら支払うのかはケースバイケースでの対応ではなく、あらかじめ就業規則に規定しておく必要があります。

有給休暇は本来、「取得してリフレッシュしてもらう」制度であるため、買い取りはあくまでも最終手段と考えるようにしましょう。

そのためにも、勤怠管理システムを導入して計画的な有給の取得を促進して、有給取得率を向上させることが重要です。

有給休暇の買い取りをめぐるトラブル防止のためにも、勤怠管理システム導入をおすすめします。

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