1ヶ月単位の変形労働時間制は、月内で繁忙の差が大きい業種や部門にとって効率よく労働時間を調整できる制度です。残業代抑制効果が期待できることから、導入を検討されている方も多いかと思われますが、要件や手続きなどは事前にしっかり押さえておく必要があります。

この記事では、1ヶ月単位の変形労働時間制について、その特徴やメリット・デメリットから、他の変形労働時間制の違い、具体的な手続きの流れ、残業代計算の考え方まで、わかりやすく解説します。

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1ヶ月単位の変形労働時間制とは

1ヶ月単位の変形労働時間制とは、変形労働時間制の中でも対象期間が1ヶ月単位のものを指します。具体的には、1ヶ月以内の期間を定めてシフトを組むことで、特定の日や週に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働が可能となります。

1ヶ月単位の変形労働時間制の概要と目的

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の対象期間(「変形期間」と呼びます)の中で、週平均の所定労働時間を一定の数値に収めることを条件に、特定の日や週に法定労働時間を超える労働を命じることができる制度です。

労働基準法においては、労働時間の上限(法定労働時間)は1日8時間・週40時間と定められており、これを超えて労働を命じるには労使協定(36協定)の締結や残業代(時間外割増賃金)の支払いが必要です。しかし、業種によっては法定労働時間どおりの運用をするのが困難なケースもあります。

そこで、労働基準法第32条の2では、1か月以内の期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間(あるいは44時間)以内となるように労働日および労働時間を設定することで、法定労働時間を超える労働を命じることを認めています。

たとえば、月初や月末に業務が集中する事業場の場合は、その期間の所定労働時間を長めに設定し、比較的業務が少ない月半ばは所定労働時間を短くしたり所定休日を増やすなどして、繁閑に応じて柔軟に労働時間を調整できます。

1か月単位の変形労働時間制は、弾力的に運用できる労働時間制である一方、運用面については、慎重に進める必要があります。導入および運用のメリットとデメリットを整理し、就業規則や労使協定の方法などの基礎をしっかり理解することが重要です。

1ヶ月単位の変形労働時間制のメリット

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入し、繁忙期では所定労働時間を多く確保し、逆に閑散期では少なくすることで、「業務効率化」「ワークライフバランスの充実」「残業代抑制」などのメリットが期待できます。。

少子高齢化に伴い、「労働時間の短縮」「働き方改革」「多様な働き方」が求められる昨今の日本経済。1か月単位の変形労働時間制は、日本の現代社会の要請にマッチしたスタイルといえます。従業員は、繁忙期と閑散期の労働時間が変わることで、メリハリの利いた働き方ができます。

従来、仕事が暇な時には何もせず、漠然と業務終了時間まで業務をこなしている一方、仕事が忙しい時には時間内に仕事が終わらないことが多くありました。しかし変形労働時間制では、忙しい時には長時間働き、暇な時は短時間あるいは休暇が取得できます。

土日が休日となっている会社であれば、平日に休暇を取得しにくい状況です。平日はレジャー施設の混雑も少なく、また役所などの行政機関の窓口対応は原則平日のみです。従業員は気兼ねなく平日の休暇を取得できるのは大きなメリットです。

一方、企業側にとっても、1ヶ月を通じて残業代を抑えることが可能になります。また従業員に対して閑散期の短時間労働や休暇の取得を推進することで、従業員に心身リフレッシュしてもらい、会社全体のモチベーションの向上を図ることが可能になります。

1ヶ月単位の変形労働時間制のデメリット・注意点

変形労働時間制の導入により、従業員は残業代が少なくなる可能性があります。また、会社にとっては導入手続きの手間や勤怠管理の煩雑化というデメリットがあります。

残業代は会社が設定した労働時間によって決定されます。導入前は残業代が支払われていたのに、導入後は支払われないケースや、同じ労働時間にもかかわらず残業代が減るケースもあります。

また、導入前は社内全体が一律の同じ労働時間であったのに対し、導入後は部署や職種によって労働時間が違ってきます。一部の従業員は他に気遣って会社から帰りづらくなり、労働時間の違いにより社内から不平不満が出るような事態も出てきます。

一方、 会社側のデメリットとなるのは、人事部門の時間管理や勤怠管理が非常に複雑で煩雑になる点です。従来、人事担当者は全従業員の労働時間を、統一された法定労働時間(1週間40時間、1日8時間)を基準に残業代を算出していました。

ところが、変形労働時間制では従業員ごと、あるいは部署ごとに全くバラバラの時間管理、シフト表の管理、勤怠管理と残業代の計算をしなければなりません。

また、導入時の手続きには、就業規則の改定や労使協定の締結の手順などを踏む必要があります。手続きを進める際は、問題がないかを十分にチェックして慎重に進める必要があるため、会社側にとっても非常に負担の大きい作業となります。

1ヶ月単位の変形労働時間制と相性の良い業種・職種

相性の良い代表的な業種としては、小売業、飲食業、理美容業、医療・介護福祉業、運輸業などがあります。1ヶ月単位の変形労働時間制は、特に1ヶ月間の中で繁忙期と閑散期の差が激しい業種や職種と相性が良いとされています。

例えば小売業や理美容業の場合、土日や祝日などの特定日や連休、一般的な給料日毎月25日以降の月末のほうが、来客数が多くなる傾向があります。また会社の経理部門は、一般的に月初と月末に業務が集中することが多いため導入のメリットが大きいといえます。

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1ヶ月単位の変形労働時間制と他の変形労働時間制との違い

変形労働時間制には、1ヶ月単位の他に以下の3種類があります。それぞれの違いについて見ていきましょう。

  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • フレックスタイム制

1年単位の変形労働時間制との違い

1年単位の変形労働時間制は、変形期間が1ヶ月を超え1年以内であることに加えて、以下のような違いがあります。

1ヶ月単位1年単位
労使協定の締結就業規則でも可必須
労働日数の上限なし年間280日まで
特定期間なしあり
連続労働日数の上限なし6日(特定期間は12日)
1日当たりの労働時間の上限なし10時間まで
1日当たりの労働時間の上限なし52時間まで

特定期間とは、変形期間のうち特に繁忙である時期のことで、定めておくことで連続労働日数6日の制限を超えて最長12日の連続動労が可能となります。ただし、あくまでも例外的な取り扱いであるため、変形期間の大半を特定期間として指定することは認められません。

また、1ヶ月単位の変形労働時間制は導入方法を就業規則か労使協定か選択できますが、1年単位の変形労働時間制は、導入に際して必ず労使協定を締結しなければなりません

1週間単位の非定型的変形労働時間制との違い

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、対象期間が1週間単位であることに加えて、以下のような違いがあります。なお、導入への障壁が高いうえに運用の手間もかかるため、現実に採用している事業場はほとんどありません

1ヶ月単位1週間単位
対象事業場制限なし常時30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業
労使協定の締結就業規則でも可必須
1日の所定労働時間の上限なし10時間まで
労働時間の事前書面通知不要必要

フレックスタイム制との違い

フレックスタイム制は、始業・終業時刻を労働者が自由に設定できる制度です。必ず出勤すべき時間帯をコアタイム、自由に出退勤を設定できる時間帯をフレキシブルタイムと呼びます。1ヶ月単位の変形労働時間制とは以下のような違いがあります。

1ヶ月単位フレックスタイム制
出退勤時間の選択就業規則等に従う労働者が自由に設定
時間外労働の計算日単位、週単位、期間通算の3段階対象期間(清算期間)トータル
期間内の労働時間が不足した場合の調整なし次の期間に繰り越せる

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1ヶ月単位の変形労働時間制導入の流れ

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入し運用するには、所定の準備と手続きが必要になります。

1ヶ月単位の変形労働時間制導入の流れ

  1. 対象者を決める
  2. 起算日及び対象期間を決める
  3. 労働日と労働時間を決める
  4. 有効期間を決める
  5. 就業規則または労使協定への記載・届出

この手順に漏れや誤りがあると、労働基準監督署の調査で法令違反を指摘されるケースや、残業代の上乗せ支給が必要になるなど、経営を揺るがす大きな問題に発展する可能性があります。導入の手続きと流れをきちんと理解して、万全な準備を進めることが重要です。

1.対象者を決める

労働基準法では、変形労働時間制を導入する際、対象者の制限は特に設けられていません。しかし、変形労働時間制の対象者の範囲については明確に定める必要があります。

まず対象者を全従業員にするのか、あるいは特定の部門や職種の従業員のみ対象にするのかを明確にします。また、育児・介護等を行う人への配慮や、1ヶ月単位の変形労働時間制の適用除外等の制限も設けられているため、注意しましょう。

(1)育児を行う者などへの配慮
育児を⾏う者、⽼人などの介護を⾏う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児などに必要な時間を確保できるよう配慮しなければなりません。
(2)1ヶ月単位の変形労働時間制を採用できない者
・満18歳未満の年少者(ただし、満15歳以上満18歳未満の者(満15歳に達した日以後の最初の3⽉31日までの間を除く)については、1週間48時間、1日8時間を超えない範囲で採⽤可)
・妊産婦(妊娠中及び産後1年を経過しない⼥性)が請求した場合

厚生労働省HP リーフレットシリーズ労基法32条の2

2.起算日及び対象期間を決める

起算日と対象期間を具体的に決めます。起算日は通常月初日、あるいは賃金の算定期間初日です。変形労働時間制の対象期間を変形期間と呼びますが、変形期間は1ヶ月以内であればよいため、4週間と決めることも可能です。

3.労働日と労働時間を決める

シフト表や会社独自のカレンダーなどを活用し、変形期間における労働日と各日の労働時間を具体的に決めます。その際、決定した変形期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないように設定する必要があります。

しかし、労働日が確定せず各日の労働時間を就業規則などに盛り込むことが難しい場合は、「期間開始日の〇日前までにシフト表により周知する」などの文言を、就業規則に盛り込むようにしてください。

また、特定した労働日または労働日ごとの労働時間を、会社が任意に変更できません。例えば、会社側が「来週は忙しいから労働時間を変更する」といった、任意のタイミングでの変更は認められません。

4.有効期間を決める

労使協定により1ヶ月単位の変形労働時間制を定める場合は、その有効期間を変形期間以上の期間に定める必要があります。1ヶ月単位の場合は、通常、3年以内程度にすることが望ましいとされています。なお、就業規則に定める場合は、有効期間の定めは不要です。

5.就業規則または労使協定への記載・届出

1ヶ月単位の変形労働時間制について、就業規則に定めた場合は「就業規則変更届」、労使協定に定めた場合は「労使協定締結届」を管轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。また、労使協定は有効期間がありますので、有効期間切れにならないように十分に管理を徹底してください。

就業規則や労使協定は、運用を開始する前に、その内容を従業員に周知する必要があります。それぞれの詳細を説明し、変形労働時間制について、従業員の理解を深めてもらうことが重要です。

仮に従業員への周知が徹底できないと、1か月単位の変形労働時間制に関して誤解が生じ、従業員の不満やモチベーションダウンにつながる恐れがあります。

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1ヶ月単位の変形労働時間制の導入例

実際の労働日・労働時間の設定方法を、具体的な導入例をもとに解説します。

設定できる労働時間の上限

変形期間を通じて、週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないように所定労働時間を設定する必要があります。具体的な上限の算出方法は以下のとおりです。

上限時間=1週間の法定労働時間(40時間または44時間)×変形期間の歴日数÷7

月の歴日数法定労働時間40時間の事業場法定労働時間44時間の事業場
31日177.1時間194.8時間
30日171.4時間188.5時間
29日165.7時間182.2時間
28日160.0時間176.0時間
【1ヶ月の暦日数ごとの所定労働時間の上限】

ある事業場の導入例

月初と月末に繁忙期である卸売業A社の事例をみていきます。

【前提条件】

  • A社の法定労働時間は週40時間
  • 土日を休日(週5日勤務)とする
  • 1日が月曜日で、歴日数が31日である月(所定労働時間の上限は177.1時間)の労働時間を設定する
1日の所定労働時間日数週の所定労働時間
第1週( 1~ 7日)9時間5日45時間
第2週( 8~14日)7時間5日35時間
第3週(15~21日)7時間5日35時間
第4週(22~28日)7時間5日35時間
第5週(29~31日)9時間3日27時間
所定労働時間は177時間となり、上限の時間内に収まる

就業規則への記載例

上記の卸売業者A社が1ヶ月単位の変形労働時間制を導入したケースの場合、就業規則の記載例は、以下のようになります。

(始業時刻、終業時刻および休憩時間)
第○○条 所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1ヶ月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間40時間以内とする。
 2 各日の始業時間、終業時間及び休憩時間は以下の通りとする。
  ・1日から7日、月末日及びその前2日の営業日
    始業時刻   8時00分
    終業時刻  18時00分
    休憩時間  12時00分~13時00分
  ・上記以外の日
    始業時刻   9時00分
    終業時刻  17時00分
    休憩時間  12時00分~13時00分
(休日)
第○○条 休日は、毎週土曜日及び日曜日とする。

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1ヶ月単位の変形労働時間制の残業代の計算

変形労働時間制を導入した際、運用面で最も注意しなければならないのが、非常に複雑な残業代の計算です。1ヶ月単位の変形労働時間制の残業代は、3ステップに分けて計算します。上記の卸売業者A社の計算例は以下のようになります。

  • 1日単位で時間外労働時間を特定します
    1. 8時間を超える所定労働時間を定めた日で、それを超えて働いた時間
      Aの場合、第1週と第5週が該当し、9時間を超えた分が時間外労働となります
    2. 1.以外の日で1日の法定労働時間(8時間)を超えて働いた時間
      Aの場合、第2週と第3週と第4週が該当し、8時間を超えた分が時間外労働となります
  • 1週単位で時間外労働になる時間を特定します(1日単位の時間外労働で計上している時間分は除く)
    1. 40時間(または44時間)を超える所定労働時間を定めた週で、それを超えて働いた時間
      Aの場合、第1週が該当し、45時間を超えた分が時間外労働となります
      第5週は月をまたぐため次月で計算します
    2. 1.以外の週で1週の法定労働時間40時間(または44時間)を超えて働いた時間
      Aの場合、第2週と第3週と第4週が該当し、40時間を超えた分が時間外労働となります
  • 変形期間通算
    変形期間における法定労働時間の上限(上記の場合は177.1時間)を超えた時間のうち、日単位及び週単位で既に時間外労働として計上した分を除いた時間
    Aの場合、第2~4週のどこかで8時間労働した日が1日でもある場合、1日及び週の法定労働時間を超えていなくてもトータルで178時間となり、期間内の上限時間を超過することになります

1ヶ月単位の変形労働時間制の導入には、勤怠管理システムが有効

1ヶ月単位の変形労働時間制は、従業員や会社にとって様々なメリットがあります。しかし、労働時間の設定や残業代の計算など、人事部門を中心にその時間管理や労務管理は非常に煩雑になります。

1か月単位の変形労働時間制を導入する際は、複雑で煩雑な作業が大幅に増えることに備えて、勤怠管理システムを導入することをおすすめします。

勤怠管理システムでは、従業員の特性や情報を一元管理できるだけではなく、人事評価や給与管理機能があるものや、外部システムとの連携が可能となっているシステムもあります。勤怠管理システムの導入を検討される企業の皆さまは、ぜひ一度「勤怠管理システムの選定・比較ナビ」をご覧ください。

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